【書評】「絆なお強く」地村保、岩切裕著(2005年、主婦の友社)

福井県小浜市の海岸で拉致された地村保志さんのお父さん、保さんが著した本である。なぜこの15年前に出版された本を読みたいと思ったかというと、今年7月地村保さんが享年93歳でお亡くなりになり、また先月自分でも拉致問題の署名活動を行ったからだ。その時に1人で大野市内を回ったが、地村保さんも1970年代当時、自ら小浜市内を署名集めのために回っていたのだ。全国的には、メディアの露出度は横田めぐみさんのご家族のほうが高いが、私は福井県民であり、小浜市は母方の実家でもある。大野市の図書館にあるというので、早速借りて読んでみた。

 

思ったことを要点にしてあげると、

 

① 人間の弱さを痛感させられる

まず、この本で地村保さんが痛烈に批判していたのは、拉致に対してずさんな初期捜査しかしなかった対して小浜市の警察、拉致問題をロクに取り上げようとない主要メディア、そして事なかれ主義で済まそうとする政治家である。印象としては、拉致をした北朝鮮そのものよりも、警察・メディア・政治家への批判に紙面を割いていたように思う。これらは全て日本社会のエリートである。警察と政治家は一言でいうと公務員独特の事なかれ主義に毒され、メディアは共産国に対して間違った幻想を当時から持っており、産経新聞以外の主要メディアは拉致問題を報道しようとしなかった。それが小泉政権当時2002年に5人の拉致被害者が帰ってくるという情報が流れると、手のひらを返して連日拉致問題を報道し続ける。政治家と警察も世論に押されたのか、態度をガラリと変えた。人はなかなか変わらないと思っていたが、実は何かがきっかけでコロリと変わる。その変わり身の早さには舌を巻くことも。私もよくにた経験があり、選挙に当選すると、疎遠・冷淡だった人が突然フレンドリーになって近寄ってくる。なんと、人間というのは、とくに社会のエリートと呼ばれる人たちは変わり身が早く、信念が弱いのか。地村保さんが1人で署名集めをしていた頃は、ほとんど誰も彼を助けようとはしなかった。お寺の和尚さんや親せき、役所の人が「地村保志さんと富貴恵さんは死亡した」というふうに片づけようとして、保さんの神経を逆なでしたのだ。面倒なことを起こすのが怖い政治エリートたちが、拉致問題を長年軽視してきたことを思い返すと、やるせない気持ちになる。

 

② 愛こそ人を強くする

地村保さんは、病気になった妻の介護と自分の仕事に忙しく、それに加え、拉致問題の運動に尽力してきた。保さんは特別な人間ではない。酒が大好きな一介の大工で、一市民である。その保さんがなぜ何十年も諦めずに運動を続けることができたのか。突然自分の子供がいなくなったとなれば、親ならだれでも子供のために地球の裏側までも奔走しようとするだろう。署名運動とヒトコト言っても大変である。断られることもあれば、無視されることもある、天候が悪く体力を奪われることもある。しかし、一市民の地村保さんはそれをすべて数十年も継続してやってのけられたのは、子供に対する愛情からだろう。小泉訪朝以前の警察や政治家の拉致被害者に対する冷たい対応は、椅子からずり落ちそうになるレベルのものである。それだけ、当時の政治は共産国に対してあまりにも弱く、事なかれ主義で対応していたのだ。しかし、それでも、自分が1人になっても諦めないその信念は、自分の子供に対する愛情から来ていると信じたい。人を愛すれば、人はこんなに強くなれるのか、ということをこの本からしっかり学べた。

 

③ 地村さん家族はかなり幸運なケース、拉致問題はまだ終わっていない

地村さんは本人と奥さんだけでなく、後に3人の子供まで日本に帰国できている。横田さんを始めとする帰国してない拉致被害者を抱える家族は、今も相当つらい思いをしていると思う。地村さんご家族は無事帰国できたが、我々は拉致被害者の最後の1人が帰ってくるまで拉致問題は終わらないのだ。故に、我々福井県民も引き続き地村さんと一緒に拉致被害者全員の帰国を実現するべく働きかけ続けなければならないと信じる。